有給休暇を取得する権利と取得日を変更する権利
年休の時季指定権(有休を取る権利)
労働者が有給を取得するのは、どのような目的で取得しても自由であるとされており、どの労働日に取得するかについての決定権も、時季指定権として労働者に認められています。使用者はその指定された日に与えるようにしなければなりません。
年休の時季変更権(有給の取得日を変更してもらう権利)
労働基準法は、労働者に年次有給休暇を取得する日を指定する「時季指定権」を認めるとともに、会社には「事業の正常な運営を妨げる場合」には取得日(取得時季)を変更することができる「時季変更権」を認めています。
「事業の正常な運営を妨げる場合」かどうかは、その事業場を基準として、事業規模、内容、労働者の担当業務、作業の繁閑、代行者の配置の難易などを考慮して、客観的に判断されるべきとしています。たとえば、年末・年度末のような繁忙期や、風邪を引いて休んでいる人が多く人員配置の面で問題が生じる場合などが考えられます。実務上は、現場で支障が出ないように調整をするようにします。
時季変更権に関するトピック
退職日が間近なものの有給休暇申請に対する時季変更権の行使
退職予定日が20日後の労働者がその時点でいまだ20日の年休を有している場合その退職予定日を超えての時季変更はすることができません。年休は「労働の義務を免除する」ものであり労働の義務のない退職者に与えることはできないからです。
有給休暇の当日申請は「時季変更権」を行使できる
有給休暇は一般的に前もって申請するのが望ましいとされ、労働者が会社に対して有給休暇を取得したいと申し出る日(時季指定権を行使する日)については、法律上の定めはありませんが、会社が事業に支障が出るかどうか判断するだけの時間的余裕を持って申し出る事は当然である(「会社が時季変更権を行使するための時間的余裕をもってなされるべきことは事柄の性質上当然である」)とする裁判例があり、有給をその日に与えることが事業の運営に影響を与えるかどうか判断するために必要な「合理的な期間」であれば、有給休暇の申請期限を設けることも可能です。現実に就業規則には「有給休暇の申請は〇日前までに行わなければならない」と申請期限を定めている会社がほとんどでしょう。
一方、急病などの理由で有給休暇を当日申請されることも少なくありません。しかし、会社によっては当日に休まれると困るようなケースもあるでしょう。
この場合会社は、労働者からの申請を却下することは可能なのでしょうか?
就業規則で定められている申請期限が「合理的な期間」である限り、申請期限までに行われなかった有給休暇の申請については、それを認めなかったとしても違法ではありません。よって、親族に急な不幸があった場合などのように労働者側に正当な理由がある場合ならともかく、単に遊びに行くためなどの理由で就業規則上の定めに違反して有給を請求するのは労働者の権利の濫用といえるでしょう。
有給休暇の当日申請却下が「不当と判断されるケース」もある
ただし、あらかじめ定めた申請期限までに行われなかった申請が、必ず「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するわけではありません。
申請期限後の申請であっても、当該労働者の担当する作業内容、性質、繁閑の程度などを総合的に勘案した結果、代替要員の確保などの必要性がなく事業の正常な運営を妨げるとは言えない場合には有給休暇を取得させないことを不当と判断される可能性があります。
また、年次有給休暇の当日申請は、先に述べた通り法律上は事後申請の扱いとなりますが、労働者から個別に争われた場合(裁判を起こされた場合)には、実質的に事前(始業前)に行われている申請を、法律上事後申請となることを理由に拒否することは、不当と判断される可能性が否定できません。
結局のところ、当日に行われた有給休暇の申請であっても申請期限後の申請であることや当日申請であることを理由に一律にその取得を拒否することはできず、事案ごとに個別に取得の可否を判断する必要があります。
会社のルールとしては当日申請がやむを得ないことであることを確認するため医療機関のレシートや診断書などの提出を求められるようにしておき、有給休暇を認めないことの妥当性や必要性を、慎重に判断することを心掛けましょう。
時季指定権と時季変更権の関係
結局のところ労働者には有給休暇の時季指定権(日にちを指定して有給休暇を取得する権利)があります。もちろん、いちいちなぜ休むのか言う必要はありません。しかし、会社側には時季変更権があります。(事業の正常な運営を妨げる場合は他の日に休んでもらうようにしてもらう権利があります。)会社から時季変更権の行使をほのめかされれば、なぜ休むのか、その日に休む必要があるのかは伝えなくてはならないでしょう。同一の日に有休を取得したい人が複数人出れば当然、事業の運営に支障を来すことが考えられますから、そうした場合、会社は、当人同士で調整して欲しいと言うことになるでしょう。それができなければ、公平を期すために全員認めないという判断も十分考えられます。