被保険者

同居親族は労災保険・雇用保険に加入できるか

同居親族は労災保険・雇用保険に加入できるか

同居の親族とは

「同居している親族」とは、同じ世帯で生活し生計を一にしている「6親等内の血族」、「配偶者」および「3親等内の姻族」をいいます。

労働基準法上の同居の親族

同居の親族は、事業主と居住及び生計を一にするものであり、原則として労働基準法上の労働者には該当しないが、同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において一般事務又は現場作業等に従事し、かつ、次の(1)及び(2)の条件を満たすものについては、一般に私生活面での相互協力関係とは別に独立した労働関係が成立しているとみられるので、労働基準法上の労働者として取り扱うものとする。
(1) 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
(2) 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、(1)始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び(2)賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。
(昭54・4・2基発第153号)

ここで大事なことは、この要件に該当すれば「労働者として取り扱う」と言うことです。「労働者として取り扱うことができる。」ではないので役所の担当者の裁量が入り込む余地がないと言うことです。
繰り返しますが、
要件に該当すれば労働者で該当しなければ労働者でないと言うことになります。

しかし、ハローワーク等の窓口では「社長さんの妻は労働者ではありません。」と原則のみで判断される場合が多く何も知らない会社の労務担当者は「そうですか。」といって引き下がってくる場合がほとんどです。それはそうですよね。お役人に言われるのですから。そんな通達の例外や但し書きまで目を通している担当者の方は中小企業にはまずいないでしょう。

同居の親族・家族従業者は原則的には雇用保険の被保険者、労災保険の対象者になりませんが、条件によっては被保険者等になることができます。

 

実務上の手続き

雇用保険の手続き

同居の親族であっても常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、以下の要件をすべて満たす方については、被保険者とした扱うことが可能です。ただし、この適用を受けるには公共職業安定所に「同居の親族雇用実態証明書」を提出する必要があります。

1、日常的に仕事を行う際に、事業主の指揮命令に従っていることが明白なこと
2、就業の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること
3、事業主と利益を一にする地位(取締役等)にはないこと

労災保険の手続き

常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において一般事務又は現場作業等に従事し、かつ、次の要件をすべて満たす方については、労災保険法上の労働者としてあつかわれます。

1.日常的に仕事を行う際に、事業主の指揮命令に従っていることが明白なこと

2.就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もそれに応じて支払われていること。

特に、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り日及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。

実際の取り扱い例

総務の森さんより社長の妻の雇用保険について – 相談の広場 – 総務の森 (soumunomori.com)次のような記述があります。
ただし、ここに記載されているのはあくまで一例であり、こうすれば絶対という物ではありませんのでご注意ください。少なくともこの程度の証拠書類を準備できないような労務管理では認められる可能性は少ない。と考える方が良いと思います。詳細が知りたい方は上記リンクをクリックしてみてください。

当社全員分の下記書類と、Aさんの入籍前・入籍後の下記書類を提出しました。

・賃金台帳
・出勤点検簿
・労働者名簿
・雇入労働通知書
・就業規則
・源泉徴収簿
・Aさんの住民票
・履歴事項全部証明書

Aさんの賃金・労働時間・休日日数等が入籍前と入籍後で変わらないこと、Aさんと他の従業員で労働条件等が何も変わらないことを少し強調して、ハローワークの係の方にお話しました。

そしてつい先程、審査の結果Aさんの雇用保険資格が認められたというお電話をハローワークの係の方からいただきました。

労働条件・賃金などが他の従業員と変わらないこと、入籍前と入籍後で変更がないこと、役員などになっていないこと等をよく審査したうえでの結果だそうです。

『「同居の親族雇用実態証明書』を提出して良かったなと思いました。

ご意見・ご指摘していただいた皆様、ありがとうございました。

コチラは社長と従業員が結婚したケースの相談になります。単純に「社長の妻の雇用保険の資格取得」よりもさらに一段階複雑な感じがしますが、こういった実例もあります。この申請が通ったのも日頃からきちんと労務管理がなされており、適切に書類が作成されていたことが大きいと思います。日頃の労務管理の必要性を痛感しますね。

ネット情報と社労士

コチラにたどり着いた皆さんは大体の方が、「同居親族の雇用保険加入(あるいは労災保険加入)」とか「社長の妻、雇用保険」によりやってきたのではないかと思います。そして同様にサイト検索したときの多くのサイトは「同居親族は加入できない。」と記載されていたはずです。それは厚生労働省のQ&Aに

個人事業の事業主(実質的に代表者の個人事業と同様と認められる法人を含む)と同居している親族は、原則として雇用保険に加入できません。

ただし、事業主と同居する親族であっても、以下の条件を全て満たす場合は雇用保険に加入ができます。

云々

という記述があるためだと思います。原則加入できないというところだけを抜き出して記載しておけばそれは誤りではありません。また、多くのサイトにそのように記載されていれば閲覧者の方はそう思うでしょう。実際には加入できる可能性が残っておることになります。また、加入するしないの選択権は労働者側にはありません。(法律上加入できる場合は加入しなくてはなりません。)会社が手続きが面倒だと行って加入手続きを怠っていれば罰則の対象になります。

社労士に限らず、専門家の情報発信は自身の持つ知識を「お悩みを持つ一般の方」のために役立てていただくことを目的の一つにしてます。しかし、現実としてそんなに細かいことまでは記述することは不可能ですし、お悩みがぴったりフィットすることも少ないと思います。

記事をお読みになってもお悩みが解決しない場合はお近くの社労士に相談されることをおすすめします。

 

労災保険

労災保険とは

労災保険は労働基準法の「災害補償」を担保する目的で定められた「労働者災害補償保険法」に基づいた制度です。労働基準法における災害補償とは「労働者を雇用し、指揮命令下において仕事をさせる上で労働者が負傷し、疾病にかかった場合は使用者は自らの費用で必要な保証を行わなければならない」というものです。使用者はその過失の有無にかかわらずに無過失賠償責任を負わなければなりません。ところが、使用者によっては必要な保証を行えない場合もあります。そのため、労災保険制度が創設され「労災保険による給付が行われる場合には使用者が行うべき災害補償は免除される」ことになっています。余談ですが、このように使用者が負うべき賠償責任を担保するので労災保険料は全額事業主負担となっています。

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労働保険・社会保険の適用と被保険者

労働保険とか社会保険ってどういう保険

労働保険とは

労働保険とは、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険を総称したものです。両保険は保険料の徴収は一体となって行われていますが、保険給付は別々のものとして行われています。所管する行政庁も労災保険は労働基準監督署、雇用保険は公共職業安定所(ハローワーク)が行っています。

労災保険は、労働者が仕事上や通勤途中にケガをしたり病気になったり、死亡した場合に保険給付を行います。雇用保険は失業した場合や雇用の継続が困難になった場合に被保険者(労働者)に対して保険給付を行い、また、雇用を守るために各種助成金を事業主に対して支給したりします。

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