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社内旅行・運動会などの社内行事の労働時間管理

参加強制の社内行事は労働時間

社内行事が労働時間となるかどうかについては、「使用者の指揮命令下」に有るかどうかが問題となり、完全自由参加であり不参加の場合にも何らペナルティがない場合は労働時間にはなりません。

一方、事実上強制となる社内行事や社内旅行の場合、その時間は労働時間となり賃金が発生します。こうした行事は業務のある平日ではなく休日に行われることが多いと思われるので、時間外手当や休日手当にも注意が必要です。

強制的に参加させていい根拠。

使用者には「業務命令権」という権利があり、社内行事への「参加強制」もこの「業務命令権」の一環としてであれば、会社が社員に対して行うことができます。
業務時間内の社内行事に対して、参加を強制されたケースでは、この「業務命令権」により参加を強制された場合にはしたがわなければなりません。当然、賃金も通常どおり支払われます。

同様に考えて、業務時間外の社内行事に対しては参加強制を、適法に行うためには業務の一環(すなわち「残業」)として行う必要があります。

参加したくないにもかかわらず、社内行事やイベントに参加を強制されたのであれば、これはすなわち、会社の指揮監督下に置かれていることになります。したがって、参加強制をされた社内行事は、「労働時間」です。参加強制されていなければそれは労働時間ではありません。参加せずともいいのです。

参加強制には直接的強制と間接的強制の2つの場合があります。

  • 会社からの命令で、絶対に参加するよう言われている。(直接的強制)
  • 「自由参加」だが、不参加だと賃金を控除されたりする。(間接的強制)
  • 「自由参加」だが、参加しないと注意されるなどパワハラの標的になる。(間接的強制)
  • 「自由参加」だが、参加しないと無視されるなど職場いじめがある。(間接的強制)
  • 「自由参加」だが、不参加だと「協調性がない」といわれ、協調性不足という人事評価をされる。(間接的強制)
  • 社内行事、イベントの幹事、実行委員会などに指名され、欠席できない。(間接的強制)

建前だけ「自由参加」としていても強制参加と見なされる場合があることに注意しましょう。参加を強制した場合には業務と見なされ賃金が発生します。

健康診断の種類と労働時間

健康診断には2種類ある

健康診断には大きく分けて一般健康診断と特殊健康診断があります。一般健康診断とは、職種に関係なく、労働者の雇入れ時と、雇入れ後1年以内ごとに一回、定期的に行う健康診断です。特殊健康診断とは、法定の有害業務に従事する労働者が受ける健康診断です。一般健康診断は、一般的な健康確保を目的として事業者に実施義務を課したものですので、業務遂行との直接の関連において行われるものではありません。そのため、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきものになります。ただし、円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいでしょう。特殊健康診断は業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断ですので、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要です。

1 一般健康診断(安衛法第66条第1項)

安衛法に規定されている健康診断で、労働者の一般的な健康診断です。健康的で快適な職業生活を送るためにも必要なもので、特別な内容ではありません。雇入れ時の健康診断や、1年以内に1回以上の受診が必要な定期健康診断は、この一般健康診断に分類されます。

2特殊健康診断

2-1 有害業務の特殊健康診断(法第66条第2項)

安衛法やじん肺法に規定されている特定の有害業務に従事する労働者を対象とする健康診断です。業務に関連する健康に与える影響の状況や程度を調べたり確認したりするために必要なものです。

2-2 有害業務の歯科医師による健康診断(法第66条第3項)

歯またはその支持組織に有害なガス、蒸気、粉じんを発散する場所での業務に常時従事する労働者を対象に実施します。

2-3 通達による特殊健康診断

業務の種類によって、法令に規定されている健康診断とは別の健康診断として必要とされるものです。強制的なものではありませんが、必要な人には受診させておくべきです。

健康診断は業務時間に行うべきか?

これらの健康診断を労働時間内に受診するべきなのか、あるいは、労働時間外に受診すべきか?という点について考えてみましょう。それには、次のような通達が出ています。

健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払い(昭和47年9月18日、基発第602号)

健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、労働者一般を対象とする一般健康診断は、一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施を義務づけたものであり、業務遂行との関連において行われるものでは無いので、その受診に要した時間については、当然に事業者の負担するべきものではなく、労使協議して決めるべきものであるが、労働者の健康の確保は事業の円滑な運営に不可欠な条件であることを考えるとその受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが、望ましい。

特殊健康診断は事業の遂行に絡んで当然に実施しなければならない性格のものでありそれは所定労働時間内に行われることを原則とする。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割り増し賃金を支払わなければならない。

健康診断に要した時間の考え方

この通達を簡単に言い換えてみます。

1 一般健康診断

一般健康診断は、労働者の職種やその業種には関係なく実施されるもので、雇入れ時健康診断と定期健康診断が代表的なものです。一般健康診断は、一般的な健康の保持と確保を目的としたもので、使用者には健康診断の実施義務があります。

しかし、業務との直接の関連はないので受診時間を業務時間内にするか、業務時間外にするかはそれぞれの会社の労使間で決めることになっています。「当然には事業者が負担すべきものではなく」というのは、会社が賃金を支払わなければいけないのではないということです。しかし、会社には健康診断の実施義務があるのですから、業務時間内に実施する、もしくは賃金を与える事が望ましいと思います。また、健康を確保し保持することは、会社を正常に運営する為にも必要なことですから、それに要した時間に賃金を払う方が適切と考えられます。

2 特殊健康診断

危険または有害な業務として法で定められている職業には特殊健康診断が必要で、事業主の責任で当然に実施すべきものです。

一般健康診断とは違い、特殊健康診断は業務を遂行する上で必要な健康診断で、所定労働時間内に行うことが前提です。ですから、業務時間外に行ったとしても、賃金(割増賃金)の支払いが必要です。

管理監督者や裁量労働制の労働者の労働時間管理

管理監督者、完全月給制の者、裁量労働制の適用者などは労働時間の管理をしなくても良いのか

働き方改革により労働時間の把握は義務化へ

今回、労働基準法ではなく、労働安全衛生法の施行規則(安衛則)の改正で労働時間の適正把握の法制化が予定されています。

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を守り快適な作業環境を確保することを目的とした法律で、労働基準監督官が臨検監督で確認や指導を行う主要法令の一つです。この法律において、「労働時間の把握」が使用者(企業)の”義務”であると明記されることになりました。

厚生労働省発行のガイドラインによると

現状(2018年6月現在)では、厚生労働省発行の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で、主に以下のポイントが明記されています。

・使用者(事業主)は労働者の働いた時間を把握する

・参加義務のある研修や教育訓練、業務に必要な学習も全て「労働時間」とみなす

・使用者は労働者の仕事の始まりと終わりの時間を明確に把握・記録する

・機器やシステム使っての”客観的な記録”が基礎。労働者自らも確認をする

・自己申告制にする場合はガイドライン遵守及び十分な説明を行う

・自己申告とシステムで記録された労働時間に大きな差が出た場合は実態調査を実施する

・使用者は労働者ごとに労働時間・日数、時間外、休日、深夜労働の時間を適正に記録する

こうしてみると、当然のことばかりと思う方もいらっしゃるかもしれません。それにもかかわらず、サービス残業や持ち帰り残業などが横行しています。

労働時間の把握はなぜ必要

労働時間の適正把握は、賃金計算トラブルやサービス残業(未払い残業代)の予防・解決の面からも必要ですが、長時間労働による健康障害の防止の観点からも大変重要です。

例えば、「管理監督者」は労働基準法第41条で労働時間、休日及び休憩に関する規定の適用対象外となっており、管理監督者が残業を行なっても労基法上の時間外労働手当を支払う義務は無く、逆に遅刻・早退しても賃金控除されることはありません。その一方で長時間労働が続けば健康が害される可能性が高まります。そうしたリスクを避ける為、毎日の厳格な出退勤時刻の管理は出来ませんが、通常どれぐらいの勤務時間になっているのかといった勤務実態の掌握や必要に応じた指導は事業者として当然に行なわなければならないということです。

万が一、過労死や過労自殺が生じた場合には、管理監督者であることを理由に企業責任が免れることが出来るわけではなく、多額の損害賠償につながります。「労働基準法で労働時間に関する規定の適用対象外である」からといって「長時間労働による健康障害防止の必要性」が無いわけでは無いのです。

全ての労働者について、少なくともタイムカードなどの客観的な記録に基づく労働時間管理を行うようにしましょう。

最近では、勤怠管理は紙やタイムカードでの管理から、ICTを活用した勤怠管理システムを利用するのが主流となってきています。現在企業向けに提供されている勤怠管理システムのサービスは無数にありますが、どれもそれぞれの特徴があるため、業種や会社の規模などにより最適なものが異なります。

労働時間の短い労働者

短時間労働者の特徴と言えば社会保険に加入できないことです。

短時間労働者の社会保険

労働時間が通常の労働者と比べて短い者の社会保険の加入条件は次のようになっています。

雇用保険 週所定労働時間が20時間以上で強制加入。

社会保険(健康保険・厚生年金) 通常の労働者の4分の3以上で強制加入。通常の労働者が週40時間なら30時間以上。35時間なら25.5時間以上で強制加入となります。

労災保険 労働時間に関係なく強制加入(適用除外に該当する場合を除く)

短時間労働者の有給休暇

短時間労働者の場合、有給休暇は比例付与となります。

週の労働時間が30時間未満で所定労働日数が週4日以下(年間所定労働日数の場合は216日以下)の短時間労働者は、その所定労働日数によって、以下のような付与日数が決められています。

週所定労働日数 1年間の所定労働日数 雇入れ日から起算した継続勤務期間(単位:年)
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
4日 169日~216日 7 8 9 10 12 13 15
3日 121日~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日 73日~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日 48日~72日 1 2 2 2 3 3 3

例えば、週3日のパートであれば、雇入れ時から半年(0.5年)の時点で5日の有給休暇を付与されます。

なお、パートであっても1週間の所定労働時間が30時間以上、1週間の所定労働日数が5日以上、または1年間の所定労働日数が217日以上であれば、正社員と同じ有給休暇が付与されます。

パートタイマー(短時間労働者)への社会保険(健保・厚生年金)適用の拡大

平成28年10月より、週の所定労働時間が20時間以上の者にまで適用されることとなりました。

 

 短時間労働者の各保険の適用表

週所定労働時間 30時間以上 20時間以上30時間未満 週20時間未満
厚生年金保険    〇     ◎
健康保険    〇     ◎
雇用保険    〇     〇
労災保険    〇     〇     〇

*  ◎  新規で社会保険の適用になる短時間労働者

以下のすべてに当てはまる者

1.週所定労働時間が20時間以上

2.年収が106万円以上

3.月収が88,000円以上

4.雇用期間が1年以上

5.企業規模が従業員501名以上(*平成31年9月30日までの時限措置)

労働者の保険料負担

各種保険料率 新制度導入前 新制度導入後
厚生年金保険料率 0% 18.3%
健康保険、介護保険料率 0% 12%

ということで一気に30%超の負担増(事業主負担15%超の負担増)になります。社会保険加入はいいけれど結構大変です。しかし、負担有るところ給付ありです。特に年金は将来かならず、「ああ、あのときは入れて良かった」と思うはずです。

労働契約の労働時間が実態とかけ離れている。

雇用契約書は必ず交付しましょう

雇用契約の問題

そもそも、求人に応募して、お互いに労働条件について話し合い、確認して、合意した場合に初めて、働き始めるのですが、その際には「労働契約書」を作成する必要があります。労働基準法では、労働契約の締結に当たり「書面で明示するべき事項」が定められています。書面が交付されないのは法律違反になります。

そうは言っても、小さな会社の場合は口頭だけで済ませてしまい働き始めると言ったことは普通にあります。こうした場合「約束が違う」などトラブルの元です。しかも明示された労働条件が事実と異なる場合労働者は一方的に労働契約を打ち切ることができる。といっているホームページも有りますが、そうした場合、労働者の暮らしはどうするのでしょうか?とても現実的な選択とは思えません。事業主の側としても余計なストレスを生ずるだけです。必ず書面を交付し、それを守るようにしましょう。

実際に労働時間が雇用契約書と異なる場合の扱い

実際の労働時間が労働基準法に則っていて、賃金もきちんと支払われているのであれば大きな問題はありません。雇用契約書を事実に合わせて修正しましょう。しかし、実際の労働時間(残業をしている場合など)に基づいた給与計算を行わずに、給与計算だけ就業規則の労働時間(法定労働時間通り)に基づいていたりすると、多くの場合「不払い残業代」の問題を生じます。このような場合労働時間によっては変形労働時間制を使用することにより、法定労働時間内に収まるケースもあるので検討してみる必要がアルでしょう。但し、これらの変形労働時間制は労使協定の締結など一手間かかるのが難点ですし、運用がまずければかえって問題を増幅することにもなりかねません。

注意するべきケース

正社員の労働時間の3/4時間・・・これは社会保険に加入するかしないかがかかわってきます。このように必ず守らなければいけない場合があります。36協定を締結しておらず、残業なしの会社では週40時間を超えてはいけません。などです。

36協定未届け事業場にたいする相談指導の強化

36協定は必ず提出しましょう

働き方改革の中心は長時間労働の抑制

今後の労務監査の方針

監督署では監督指導を行う人員を増員し、次のような是正に向けた取り組みを計画しています。

・時間外及び休日労働協定(36 協定)未届事業場に対し、民間事業者を活用し、自主点検を実施する。

・都道府県労働局及び労働基準監督署に配置している時間外及び休日労働協定点検指導員等を増員する。

・労働基準監督官 OB を活用すること等により、労働基準監督機関の監督指導体制の強化を図る。

働き方改革の中で、36協定の重要性が高まっています。いま国会で審議されている働き方改革関連法案の中心となっている労働時間の上限規制は結局は36協定の規制でもあります。しかし、現実には労務管理の基本中の基本である36協定の締結・届出さえもできていない企業が少なからずあるというのが実情です。しかし、その指導を徹底するだけの十分な体制が労働基準監督署にないというのが実態であり、それを改善するため、今年度は36協定未届事業場に対する相談指導事業が民間に委託されることとなりました。神奈川県では社会保険労務士会がその任に当たることになりました。

36協定未届事業場に対する相談指導事業の内容

今回の事業は、労働局労働基準部監督課が作成する事業場リストの事業場に対して、以下の事項が行われます。

労働条件自主点検表及び自主点検結果報告書の送付と自主点検結果報告書の回収

返信期限を過ぎ、1週間以上経過してもなお回収されていない事業場については、電話および書面による督促が行われる。
・自主点検の督促
自主点検結果報告書の回収率を上げるために、必要な措置を講じること。なお、以下については必ず実施すること。
返信期限を過ぎ、1週間以上経過してもなお回収されていない事業場については、電話による督促を行うものとする。
電話による督促を行った後さらに1週間以上経過してもなお回収されていない事業場については、文書送付による督促を行うものとする。
上記督促を行った事業場については、その経過を記録すること。
・回収した自主点検結果報告書の分析等
回収した自主点検結果報告書は、項目ごとにエクセルにより事業場ごとに集計・データ化し、労働基準法等の適合有無について分析を行うこと。また、自主点検結果報告書の返送のない事業場や宛所なく戻ってきた事業場についてもデータ化して管理すること。
なお、自主点検結果報告書の内容と作成したデータに齟齬(※3)がないかを2者以上(うち1名は統括責任者)で確認すること。
(※3)齟齬の例としては、事業場リストにおける自主点検結果報告書の返送の有無の不一致、事業場名等事業場情報の不一致、自主点検結果報告書の記載とエクセルデータの各項目に入力した内容の不一致等が考えられる。

回収した自主点検結果報告書の分析

回収した自主点検結果報告書は、項目ごとにエクセルにより事業場ごとに集計・データ化し、労働基準法等の適合有無について分析が行われる。また、返送のない事業場等もデータ化して管理される。同時に集計されたデータのうち、労働局が指定する項目について労働基準法等に適合するか否かの分析を行うとともに、労働基準法等に適合しないと認められる事業場のリストが作成される。

集団的または個別的な相談指導の必要な事業場の選別と相談指導の実施

自主点検結果報告書において相談指導を希望する事業場、自主点検結果報告書の提出がなかった事業場及びにより分析された結果、労働基準法等に適合しない事業場について、集団的な相談指導が実施される。この集団的な相談指導に参加しなかった事業場については、電話等で連絡をとり同意が得られた場合には、個別訪問による相談指導が実施される。
・集団的な相談指導での説明項目
具体的な事例を交えながら、以下の項目について、分かりやすく説明すること。また、個別訪問による相談指導を行っていることを周知し、希望する事業場があれば把握すること。
・労働条件の明示(労働基準法第15 条関係)
・労働時間、休憩、休日(労働基準法第32 条、第34 条、第35 条関係)
・労働時間の適正把握(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン関係)
・時間外・休日労働に関する協定(労働基準法第36 条関係)
・賃金の支払い(労働基準法第24 条、第36 条、最低賃金関係)
・就業規則(労働基準法第89 条関係)
・業務改善助成金の周知

1回あたりの相談指導の時間は2時間程度とすること。

集団的な相談指導に参加しなかった事業場(以下「不参加事業場」という。)について、電話等で連絡をとり同意が得られた場合には、個別訪問による相談指導を実施する。

改めて、36協定の締結届出を徹底するとともに、労働時間の最適化を進めましょう。

労働時間とそうで無いものの実際例

労働時間になるもの

労働時間に算入されるものは、裁判所の判例の積み重ねによって明示されています。判例では労働時間は「労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。」とされています。

すなわち、労働契約や就業規則に労働時間は9:00~18:00と定められていても、使用者の指揮命令下に置かれている時間かどうかという事が問題になってきます。

以下では、実際に労働時間に該当する作業について説明します。

始業前の準備、終業後の片付け

本来の業務の準備作業や後片付けについて、事業所内で行うことが使用者によって義務づけられている場合や現実に不可欠である場合には、原則として使用者の指揮命令下に置かれたものとされ、労働基準法上の労働時間に該当すると判断しています。

原材料や製品の整理整頓、機械の点検調整等、本来の作業に必要な準備作業、作業終了後の後始末、商店等における開店準備、閉店後の片付け等に要する時間は、特に使用者の指示命令がなくても本来の義務に付随して発生するものですから、労働時間に算入されるべきです。

これらの時間が労働時間に含まれるかどうかの判断は、
(1) 使用者の命令があるかどうか
(2) 当該作業を行うために必然的なもの、あるいは通常必要とされるものであるかどうか
(3) 法令で義務づけられているかどうか
などの点から検討される必要があります。

着替え

作業開始前の着替えの時間について、使用者から事業所内において行うことを義務づけられている場合などは、使用者の指揮命令下に置かれたものとされ、社会通念上必要と認められるものについては労働時間に該当すると判断しています。

使用者から義務付けられた作業服や保護具の着脱等に要した時間について、労働者が就業を命じられた業務の準備行為と認めて、これを労働基準法上の労働時間としています(三菱重工長崎造船所事件 最高裁 平12.3.9)。

一般的な更衣時間は、任意のものであれば労働時間とする必要はありませんが、あらかじめ義務付けられている制服の着脱時間や安全具の装着時間は逐一指揮命令されていなくても、一定の強制力がある場合には労働時間に含まれると解されます。

法令に義務付けられていない制服などの更衣時間については、労働時間に含めるか否かは、「就業規則に定めがあればその定めに従い、その定めがない場合には職場慣行によって決めるのが妥当(日野自動車工業事件 最高裁第一小法廷判決 昭59.10.18)とされています。

就業規則に、『始業時刻の前に着替え等を済ませておいて、始業時刻に勤務ができるように準備をしておくこと』まで規定した場合は、着替えの時間も労働時間とみなされます。制服の更衣などの時間については、どのように取り扱うのか、就業規則等で規定しておくのも労働紛争防止策の一つです。

手待ち時間

手待ち時間とは、使用者からの命令があればただちに業務に就くことができる態勢で待機している時間のことをいい、具体的には以下のような時間のことを指します。
労働基準法では、一定の時間を超えて働く労働者に対して、労働時間の途中に休憩時間を与えなければならないことが定められています。手待ち時間については、それが休憩時間なのか労働時間なのかという点が問題となります。

1.店員が顧客を待っている時間

過去の判例では、勤務時間中の客の途切れた時などを見計って適宜休憩してよいとされている時間について、いわゆる手待ち時間であって休憩時間ではなく、労働時間に当たると判断しています。

2.夜間の仮眠時間

こちらも過去の判例で、「24時間勤務の途中に与えられる連続8時間の「仮眠時間」は、労働からの解放が保障された休憩時間とはいえず、実作業のない時間も含め、全体として使用者の指揮命令下にあるというべきであり、労働基準法上の労働時間に当たる」として、仮眠時間が労働時間であると認められています。

仮眠時間はいわゆる不活動時間ですが、労働から離れることが保障されていないと判断される場合、つまり何かあった場合にただちに相当の対応をしなければならないような状況下にあるときは、労働時間に該当します。

ビル管理会社の従業員が管理・警備業務の途中に与えられる夜間の仮眠時間も、仮眠場所が制約されることや、仮眠中も突発事態への対応を義務づけられていることを理由に、労働時間に当たるとする判例があります(大星ビル管理事件 最高裁 平14.2.28)

3.電話番の時間

昼休み中に電話番や来客対応をさせることについて、厚生労働省は「明らかに業務とみなされる」として、労働時間に含まれると示しています。

「昼休み当番」として、従業員が交替で昼休みの電話番と来客応対をしていて、この「昼休み当番」の時は自席で昼食をとっているという場合、昼休み時間中事務所内にいることが義務づけられており、電話や来客があった場合にはこれらに対応しなければならないため、「手待時間」として労働時間となります。この場合は休憩時間を他に与えなければなりません。なお、その際は、法第34条第2項ただし書による労使協定を締結しなければなりません。(昭和23年4月7日 基収1196号、昭和63年3月14日 基発150号、平成11年3月31日 基発168号)

4.物品の運搬・運送

出張の目的が物品の運搬自体であるとか、物品の監視等について特別の指示がなされている場合は、使用者の指揮監督下にあるといえますので、労働時間に含むものと考えられます。

貨物取扱の事業場で貨物の積み込み係が貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合は、手待時間ですから労働時間に含むものと考えられます。

運転手が2名乗り込んで交互に運転にあたる場合に、運転しない者が助手席で休息し、又は仮眠している場合は手待時間ですから、労働時間に含むものと考えられます。労働時間が8時間を越えれば、割増の残業代も支払わなければなりません。

時間外労働の黙認

従業員の自己判断で残業をしても、事後承認が慣行となっている場合は、格別の理由がない限り時間外労働として扱わなければなりません。

勉強会・研修

勉強会や研修に参加している時間についても、労働時間として認められる場合があります。過去の判例では、労働者が月に1~2回程度、少なくとも20分以上を費やして開催される研修会に参加していた時間を時間外労働時間であると認め、会社に対して割増賃金を支払う義務があると判断しています。

勉強会や研修については、参加が義務づけられている・欠席による罰則などがある・出席しなければ業務に最低限度必要な知識が習得できない、といった場合には、労働時間として認められる可能性があるといえます。

参加が義務づけられている研修等は労働時間となります。

例えば、業務命令で休日に行われる合宿研修は、勤務扱いをしなければなりません。休日に労働させていることになるからです。研修終了後に振替休日を与えるか、休日労働として35%増しの割増賃金の支払いが必要となります。

安全衛生教育の時間

法に基づく安全衛生教育については、労働時間内に行うのを原則とします。労働時間と解されますので、法定労働時間外に行われた場合には時間外労働になり、割増賃金を支給しなければなりません。

健康診断

健康診断に関しては、厚生労働省が公式の見解を示しています。これによると、職種に関係なく定期的に行う「一般健康診断」は、業務遂行との直接の関連において行われるものではないことから、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきとしつつ、受診に要した時間の賃金を支払うことが望ましいとされています。

なお、法定の有害業務に従事する労働者が受ける「特殊健康診断」は、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断であることから、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間に該当し、賃金の支払いが必要であるとされています。

始業前の朝礼

使用者の指揮命令によるか否かで判断されることになります。

朝礼で点呼をとったり、当日の仕事の流れを説明するような場合は強制参加であるため、労働時間となります。

強制ではないが、朝礼への参加状況が人事考課に関係する場合も労働時間と判断されます。

帰宅後の呼び出し

労働に中断があっても、1日につき8時間を超える場合は時間外労働になります。

そのための往復の通勤の時間は、労働基準法上は通常の通勤時間と同一のものとして労働時間には該当しないものと解されます。往復の通勤の時間賃金の支払いは不要です。

有給休暇中に緊急の呼び出しで出勤したという場合、原則、有給は取得しなかったものとして扱われ、通常の出勤日となります。賃金も労働時間に対して支払うことになります。

労働時間とみなされない時間

以下のような作業に要する時間については、労働時間とみなされないため注意が必要です。

通勤

通勤自体は働くために必要な作業となりますが、通勤時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」としては判断されません。

タイムカードの打刻

事業場に入ってから、タイムカード等の置いてある所まで行くのに要する時間は、労働時間には入りません。(三晃印刷事件 東京地裁 平成9.03.13)

法令に義務付けられていない制服などの更衣時間

法令に義務付けられていない制服などの更衣時間については、労働時間に含めるか否かは、「就業規則に定めがあればその定めに従い、その定めがない場合には職場慣行によって決めるのが妥当」(日野自動車工業事件 最高裁 昭59.10.18)とされています。作業するために不可欠なものであっても、働くための準備行為なので労働力そのものではないので、更衣時間については原則として労働時間に含めません。

朝の掃除、準備

従業員が自主的に掃除などをしている場合は、本人の自発的な行動とみなされ、労働時間にはなりません。

始業前の掃除やお湯を沸かしたりすることを命じられていたり、当番制によって事実上強制になっている場合で、黙示の業務命令があるとみなされた場合は労働時間となります。

始業10分前の出勤を指示された場合

「使用者の指揮命令下にあって労働力を提供している時間」にあたるかどうかにかかってきます。「実際に働いているかどうか」ということで、拘束力が弱く業務を行っていない場合は、指揮命令下にあって労働力を提供しているとは言えず、早出とみなされる可能性は低いと思われます。

朝礼、ミーティング等で、参加が義務づけられている場合には労働時間となり、早出として時間外手当を支払う必要があります。

始業前のラジオ体操

「参加は従業員に強く奨励されていたが、義務付けられていたということはできない」として、労働時間として認めなかった判例があります(住友電気工業事件 大阪地裁 昭58.8.25)。

休憩時間・始業・終業時刻の前後の自由時間

使用者の拘束下にありますが、労務提供のための指揮命令は受けておらず、労働から解放されているため、労働時間になりません。

自発的な残業

原則として、自発的に行なう残業については、労働時間として取り扱う必要はありません。残業は、使用者の業務命令があって初めて生ずるものだからです。

明確な業務命令がなかったとしても、残業を行なう労働者を黙認していた場合などは、黙示の指示があったものとして労働時間となります。

持ち帰り残業

持ち帰り残業とは、書類を自宅に持ち帰ったり、メールでデータを自宅のパソコンに送信しておいて、自宅で仕事(残業)を行なうことですが、自発的に行なう場合は原則として労働時間にはなりません。

作業後の入浴

労働安全衛生規則では、「事業者は身体または被服を汚染するおそれのある業務に労働者を従事させるときは、洗眼、洗身もしくはうがいの設備、更衣設備または洗濯のための設備を設けなければならない」ことを定めています。ただし、入浴時間などについての規定はなく、入浴時間については使用者の指揮命令下にあるとはいえないと解されています。
厚生労働省の通知では、坑内労働者の入浴時間について、通常労働時間に算入されないと示されています。

一般健康診断の受診時間

従業員一般に対して行われる一般健康診断は、一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないため、受診のために要した時間は労働時間として扱わなくても差し支えありません。

特定の有害な業務に従事する労働者について行われる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで実施されなければならない性格のものです。実施に要する時間は労働時間と解されます。

就業時間外の教育訓練

使用者が実施する教育に参加することについて、出席の強制がなく、自由参加のものであれば時間外労働にはなりません。このあたりのことを、就業規則には明確に定めておくとよいでしょう。

昇進・昇格試験を休日に実施した場合は、休日出勤にはなりません。報酬などの向上を目指すための昇格試験なので、労働時間とはみなされないのです。

受験しなかったときに給料の減額などの受講者にとって不利益な措置があるときは、労働時間とみなされます。

休日の接待ゴルフ

原則として休日労働とはなりません。

本人はプレーせず、コンペの準備や進行、送迎等の接待の任務をもって参加する担当者の場合は、それが使用者の命令によるものであり、かつ主たる業務として行なわれる限り労働時間となります。なお、開催が平日であれば、通常の労働時間として扱ってよいでしょう。

出張の移動時間

出張先への移動時間については通勤時間と同様に、その間は、会社の指揮・監督下にあるわけではなく、労働時間では無いとする見方が有力です。裁判例には、「出張の際の往復に要する時間は労働者が日常出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがって時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である」とするものがあります(横浜地裁判決昭和49年1月26日)。つまり、移動時間中に、特に具体的な業務を命じられておらず、労働者が自由に活動できる状態にあれば、労働時間とはならないと解されます。
ただし、一度会社に立寄ってから向かう場合や、出張先から会社へ戻る場合にあっては、その時間は労働時間にあたると一般的には解されています。たとえば、営業で取引先をまわる場合などが想定されるでしょう。
また、出張の目的が物品の運搬自体であるとか、物品の監視等について特別の指示がなされている場合には、使用者の指揮監督下にあるといえますので、労働時間に含まれると考えます。上司が同行しての出張の場合にも、会社の指揮・監督下にあるとして、労働時間にあたると解されています。
なお、労働基準法38条の2で「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」と規定されており、通勤途上による寄り道で、その時間の把握が困難な場合には、原則として所定労働時間(みなし時間)とし、時間外労働として扱わなくてもよいとされます。たとえば、弁護士の業務を例にとれば、朝裁判所に寄ってから事務所に行くという場合には、仮に就業開始時刻より早く裁判所に寄ったとしても、時間外労働と扱われないことになります。

出張中の休日に移動のため旅行する場合は、特段の指示がない限り労働時間に含める必要がないとされます(昭和23年3月17日 基発461 昭和33年2月13日 基発90号)。しかし、何らかの手当を支給するなどの方法で報いるのが良いと考えます。

自宅待機をさせた場合

場所的には自宅に拘束されるものの、その時間は自由に利用できます。事業場で使用者の指揮監督のもとに拘束される手待ち時間とは異なるものと考えられます。自宅待機の時間を「労働時間」とみなす必要はありません。

自宅待機について、賃金を支払いの定めはありません。しかし、休日に待機命令を行うことは、強制力をもって行うことには問題があり、労働時間とはならず、その手当も宿日直手当程度(平均賃金の3分の1)が相当と思われます。
休日に業務遂行を前提として会社に「待機」させる場合は、待機時間は労働時間となりますが、非常のときに備えて待機するだけのときは「日直」と扱うこともできます。宿日直手当程度(平均賃金の3分の1)が相当でしょう。