計画的付与で会社の指定する日に社員に有給を与える
計画的付与とは年次有給休暇の5日を超える部分についてあらかじめ付与日を決めて取得させる制度のことです。(労働基準法39条第5項)計画的付与には、事前に労使協定を結び、就業規則など関連する社内規程の整備が必要ですが、年次有給休暇の取得率を向上させ、労働環境の向上が期待できます。
たとえば、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始といった大きな休みの導入に年次有給休暇の計画的付与が利用されています。この制度は、年休の取得率を高め年間労働日、年間労働時間を短縮することを目的として導入されたものです。
「計画的付与」は労働者各人の付与日数のうち5日を超える部分については「労使協定」を締結すれば、時季を定めて計画的に与えることができます(この協定は、労基署に届け出る必要はありません)。
また、「5日を超える部分」には前年度から繰り越す部分も含めます。つまり前年度と今年度合わせて40日分の有給がある労働者の場合、最大で35日分が計画的付与の対象となります。
計画的付与の方法
計画的付与の方法としては、社員全員に同時期に有給を与える一斉付与、あらかじめ定められたグループごとに与える班別付与、個別に与える個人別付与があります。
事業所全体の一斉付与方式
例えば、ゴールデンウイークの周辺の労働日を計画年休の対象とし、全員一斉に休日するというものです。
この場合、対象となる年休日数のない(少ない)者には、特別の有給休暇を与えるか、少なくとも6割の休業手当(労働基準法26条)を支払う必要があります。
課、班別の交替制方式
労働者を1班と2班に分け、1班は8月1日から5日まで、2班は8月16日から20日までというように、計画年休を振り分け事業所は休業しないという方法です。
事業所は休業とはならないので、上記のような休業手当の必要な者は発生しません。
個人別付与方式
それぞれの労働者に希望を聞き、全体の調整をしたうえで、個人ごとに年休日を指定し、その指定された日に計画年休を取得するものです。
労使協定の内容
(1) |
年次有給休暇の計画的付与の時季 |
(2) |
年次有給休暇の計画的付与の対象日数 |
(3) |
年次有給休暇の計画的付与の設定の仕方
- 事業場全体の休業による一斉付与の場合には、具体的な年次有給休暇の付与日
- 班別の交替制付与の場合には、班別の具体的な年次有給休暇の付与日
- 年次有給休暇付与計画表による個人別付与の場合には、計画表を作成する時期、手続等(具体的な年次有給休暇の付与はその計画表によって定まることになる。)
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(4) |
やむを得ない特別な事情が生じたときに、付与日の変更を申し入れることを可能とする条件 |
通常、使用者は年度当初において「年休カレンダー」を作成し、ここに労働者の計画付与日を記入させることによって、その年休日が特定されることになります。
なお、時間単位年休は、個々の労働者に対して時間単位による年休の取得を義務付けるものではなく、労働者が時間単位による取得を請求した場合において、労働者が請求した時季に時間単位により年次有給休暇を与えることができるというものであることから、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。
計画的付与にあたって考慮すべき事項(確認)
計画的付与の対象から除く者
計画的付与の時季に育児休業や産前産後の休業などに入ることがわかっている者、また、定年などあらかじめ退職することがわかっている者については、労使協定で計画的付与の対象からはずしておきます。
なお、特別の事情により年次有給休暇の付与日があらかじめ定められることが適当でない労働者については、年次有給休暇の計画的付与の労使協定を結ぶ際、計画的付与の対象から除外することも含め、十分労使関係者が考慮するよう指導すること。
(昭和63.1.1 基発1号)
対象となる年次有給休暇の日数
年次有給休暇のうち、少なくとも5日は従業員の自由な取得を保障しなければなりません。したがって、5日を超える日数につき、労使協定に基づき計画的に付与することになります。
計画的付与の効果的活用法
夏季・年末休暇に組み込み、大型連休とする
この方法は、企業若しくは事業場全体の休業による一斉付与方式、班・グループ別の交替制付与方式に多く活用されています。
ブリッジホリデー
暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、休日間の橋渡しとして計画的付与制度を活用し、連休とします。
アニバーサリー(メモリアル)休暇制度
従業員本人の誕生日や結婚記念日、子どもの誕生日などを休暇とします。あらかじめ日にちが確定しているので、計画的付与も実施しやすくなります。
閑散期に集中させる
業務の比較的閑散な時期に年次有給休暇を計画的に付与するようにし、業務に支障をきたさないようにしながら休暇の取得向上を図ります。
計画的付与が決定したあとで、使用者の都合で時季変更ができるのか?
厚生労働省は、時季変更はできないという見解に立っています。
労使協定による計画的付与において、指定した日に指定された労働者を就労させる必要が生じた場合であっても、計画的付与の場合には第39条第4項の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない。
(昭和63.3.14 基発150号)
すなわち、使用者は「請求された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる」という事情があった場合も、計画された年休の時季を別の時季に代えることができないとされています。
どうしても変更せざるをえない場合は、変更の事由と時季、その理由が信義則に反していないかどうかを検討し、限定的に認めることになるでしょう。
あらかじめ計画的付与日を変更することが予想される場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続きについて定めておきます。
複数組合があった場合の取扱い
労基法の規定に基づき、労使協定による年休の取得時季が集団的統一的に特定されると、その日数については、適用対象とされた事業場の全労働者を拘束することになりますが、その協定に反対する少数組合がある場合には、その少数組合員を協定に拘束することが著しく不合理であるような特別の事情があったり、不公正であったりするときは、その効果は少数組合員に及ばないこともあります。(三菱重工業事件 長崎地裁 平成4.3.26)
労働者による変更
労使協定の中に特段の定めがなければ、個別に検討され処理されることになります。
年休の日数が不足する労働者の場合
計画年休に充当する年休日数が不足する労働者の場合については、行政解釈では「付与日数を増やす等の措置が必要」としています(昭和63.1.1 基発1号)
が、こういった措置が講じられない場合は問題が生じます。
たとえば、計画年休が年10日あって工場が休業するのだが、従業員の中には年休から供出できる日数が10日に満たない者がおり、工場が休業している以上、出勤もできない状況に陥るという場合です。
このような労働者の欠勤は、労基法26条に規定する「使用者の責に帰すべき事由」による休業として取り扱われると解されています。
「付与日数を増やす、あるいは、計画的付与の対象外にする等の措置」をとらずに当該労働者を休業させる場合には、労働契約や労働協約、就業規則等に基づき、賃金、手当等の支払を定めているときは、当該労働契約等に基づき当該手当等を支払う必要がありますが、そのような定めがない場合であっても、少なくとも労働基準法第26条の規定による休業手当の支払(平均賃金の100分の60以上)が原則として必要です。
つまり、労働者は使用者に対して、休業手当(平均賃金の100分の60)を請求することができることになります。(昭和63.3.14 基発150号)
計画年休適用期間中に退職する労働者の場合
当該年休は個人年休として与えるよりほかはないと思われます。
したがって、予定された計画年休分を別の時季に指定してきた場合は、使用者はこれを拒めないと解されます。(昭和63.3.14 基発150号)