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有給休暇時の賃金と平均賃金

有給休暇取得時の賃金

有給1日につき、平均賃金、もしくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う必要があります。

平均賃金とは

平均賃金は、労働者の生活を保障するためのものですから通常の生活賃金をありのままに算定することを基本とし、原則として事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額をその期間の総日数(暦日数)で除した金額です。(労働基準法第12条)
すなわち、

平均賃金=過去3ヶ月間の賃金総額÷過去3ヶ月間の総日数

平均賃金を算定する場合はどんなときか?

(1)労働者を解雇する場合の予告に代わる解雇予告手当-平均賃金の30日分以上(労基法第20条)
(2)使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当-1日につき平均賃金の6割以上(労基法第26条)
(3)年次有給休暇を取得した日について平均賃金で支払う場合の賃金(労基法第39条)
(4)労働者が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償等(労基法第76条から82条、労災保険法)
※休業補償給付など労災保険給付の額の基礎として用いられる給付基礎日額も原則として平均賃金に相当する額とされています。
(5)減給制裁の制限額-1回の額は平均賃金の半額まで、何回も制裁する際は支払賃金総額の1割まで(労基法第91条)
(6)じん肺管理区分により地方労働局長が作業転換の勧奨または指示を行う際の転換手当- 平均賃金 の30日分または60日分(じん肺法第22条)

算定事由の発生した日とは

(1)解雇予告手当の場合は、労働者に解雇の通告をした日
(2)休業手当・年次有給休暇の賃金の場合は、休業日・年休日(2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日)
(3)災害補償の場合は、事故の起きた日または、診断によって疾病が確定した日
(4)減給の制裁の場合は、制裁の意思表示が相手方に到達した日

以前3か月間とは

算定事由の発生した日は含まず、その前日から遡って3か月です。賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から遡って3か月となります。賃金締切日に事由発生した場合は、その前の締切日から遡及します。
なお、次の期間がある場合は、その日数及び賃金額は先の期間および賃金総額から控除します。

(1)業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
(2)産前産後の休業した期間
(3)使用者の責任によって休業した期間
(4)育児・介護休業期間
(5)試みの使用期間(試用期間)

賃金の総額とは

算定期間中に支払われる、賃金のすべてが含まれます。通勤手当、精皆勤手当、年次有給休暇の賃金、通勤定期券代及び昼食料補助等も含まれ、また、現実に支払われた賃金だけでなく、賃金の支払いが遅れているような場合は、未払い賃金も含めて計算されます。ベースアップの確定している場合も算入し、6か月通勤定期なども1か月ごとに支払われたものと見なして算定します。
なお、次の賃金については賃金総額から控除します。

(1)臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金等)
(2)3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(四半期ごとに支払われる賞与など、賞与であっても3か月ごとに支払われる場合は算入されます)
(3)労働協約で定められていない現物給与

日々雇い入れられる者(日雇労働者)

稼動状態にむらがあり、日によって勤務先を異にすることが多いので、一般常用労働者の場合と区別して以下のように算定します。

日雇労働者の平均賃金

(1)本人に同一事業場で1か月間に支払われた賃金総額÷その間の総労働日数×73/100
(2)(当該事業場で1か月間に働いた同種労働者がいる場合)
同種労働者の賃金総額÷その間の同種労働者の総労働日数×73/100
※1か月間に支払われた賃金総額とは算定事由発生日以前1か月間の賃金額

原則で算定できない場合、原則で算定すると著しく不適当な場合

上記の原則で算定できない特殊な事案については,平均賃金決定申請により都道府県労働局長が決定することとなりますので、所轄の労働基準監督署に相談してください。

所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金とは

所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金とは、所定労働時間が8時間の場合は「8時間労働した場合に支払われる賃金」のことです。 つまり、時給制の場合は所定労働時間に時給額をかけたものですし、日給月給の場合、1日欠勤した場合に欠勤控除される賃金額がそれに当たります。

平均賃金と所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の違い

両者の違いは、平均賃金には、時間外手当やその他諸手当を含んで算定をする一方、所定労働時間が支払われる通常の賃金では、それらを含まない、ということです。ただし、平均賃金の算定では、過去3ヶ月間の全出勤日数ではなく総歴日数で賃金総額を割るため、どちらの方が金額高くなるかは会社や労働者の働き方によって変わってきます。
どちらで支払うかは就業規則その他これに準ずるものに定めておく必要があります。 また、労使協定を結べば、健康保険法で定められている標準報酬日額(標準報酬月額を30で割ったもの)で、有給分の賃金を支払うこともできます。

有給の計画的付与は有給の5日付与義務化に有効

計画的付与で会社の指定する日に社員に有給を与える

計画的付与とは年次有給休暇の5日を超える部分についてあらかじめ付与日を決めて取得させる制度のことです。(労働基準法39条第5項)計画的付与には、事前に労使協定を結び、就業規則など関連する社内規程の整備が必要ですが、年次有給休暇の取得率を向上させ、労働環境の向上が期待できます。
たとえば、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始といった大きな休みの導入に年次有給休暇の計画的付与が利用されています。この制度は、年休の取得率を高め年間労働日、年間労働時間を短縮することを目的として導入されたものです。
「計画的付与」は労働者各人の付与日数のうち5日を超える部分については「労使協定」を締結すれば、時季を定めて計画的に与えることができます(この協定は、労基署に届け出る必要はありません)。
また、「5日を超える部分」には前年度から繰り越す部分も含めます。つまり前年度と今年度合わせて40日分の有給がある労働者の場合、最大で35日分が計画的付与の対象となります。

計画的付与の方法

計画的付与の方法としては、社員全員に同時期に有給を与える一斉付与、あらかじめ定められたグループごとに与える班別付与、個別に与える個人別付与があります。

事業所全体の一斉付与方式

例えば、ゴールデンウイークの周辺の労働日を計画年休の対象とし、全員一斉に休日するというものです。
この場合、対象となる年休日数のない(少ない)者には、特別の有給休暇を与えるか、少なくとも6割の休業手当(労働基準法26条)を支払う必要があります。

課、班別の交替制方式

労働者を1班と2班に分け、1班は8月1日から5日まで、2班は8月16日から20日までというように、計画年休を振り分け事業所は休業しないという方法です。
事業所は休業とはならないので、上記のような休業手当の必要な者は発生しません。

個人別付与方式

それぞれの労働者に希望を聞き、全体の調整をしたうえで、個人ごとに年休日を指定し、その指定された日に計画年休を取得するものです。

労使協定の内容

(1) 年次有給休暇の計画的付与の時季
(2) 年次有給休暇の計画的付与の対象日数
(3) 年次有給休暇の計画的付与の設定の仕方

  1. 事業場全体の休業による一斉付与の場合には、具体的な年次有給休暇の付与日
  2. 班別の交替制付与の場合には、班別の具体的な年次有給休暇の付与日
  3. 年次有給休暇付与計画表による個人別付与の場合には、計画表を作成する時期、手続等(具体的な年次有給休暇の付与はその計画表によって定まることになる。)
(4) やむを得ない特別な事情が生じたときに、付与日の変更を申し入れることを可能とする条件

通常、使用者は年度当初において「年休カレンダー」を作成し、ここに労働者の計画付与日を記入させることによって、その年休日が特定されることになります。
なお、時間単位年休は、個々の労働者に対して時間単位による年休の取得を義務付けるものではなく、労働者が時間単位による取得を請求した場合において、労働者が請求した時季に時間単位により年次有給休暇を与えることができるというものであることから、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。

計画的付与にあたって考慮すべき事項(確認)

計画的付与の対象から除く者

計画的付与の時季に育児休業や産前産後の休業などに入ることがわかっている者、また、定年などあらかじめ退職することがわかっている者については、労使協定で計画的付与の対象からはずしておきます。
なお、特別の事情により年次有給休暇の付与日があらかじめ定められることが適当でない労働者については、年次有給休暇の計画的付与の労使協定を結ぶ際、計画的付与の対象から除外することも含め、十分労使関係者が考慮するよう指導すること。
(昭和63.1.1 基発1号)

対象となる年次有給休暇の日数

年次有給休暇のうち、少なくとも5日は従業員の自由な取得を保障しなければなりません。したがって、5日を超える日数につき、労使協定に基づき計画的に付与することになります。

計画的付与の効果的活用法

夏季・年末休暇に組み込み、大型連休とする

この方法は、企業若しくは事業場全体の休業による一斉付与方式、班・グループ別の交替制付与方式に多く活用されています。

ブリッジホリデー

暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、休日間の橋渡しとして計画的付与制度を活用し、連休とします。

アニバーサリー(メモリアル)休暇制度

従業員本人の誕生日や結婚記念日、子どもの誕生日などを休暇とします。あらかじめ日にちが確定しているので、計画的付与も実施しやすくなります。

閑散期に集中させる

業務の比較的閑散な時期に年次有給休暇を計画的に付与するようにし、業務に支障をきたさないようにしながら休暇の取得向上を図ります。

計画的付与が決定したあとで、使用者の都合で時季変更ができるのか?

厚生労働省は、時季変更はできないという見解に立っています。

労使協定による計画的付与において、指定した日に指定された労働者を就労させる必要が生じた場合であっても、計画的付与の場合には第39条第4項の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない。

(昭和63.3.14 基発150号)

すなわち、使用者は「請求された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる」という事情があった場合も、計画された年休の時季を別の時季に代えることができないとされています。

どうしても変更せざるをえない場合は、変更の事由と時季、その理由が信義則に反していないかどうかを検討し、限定的に認めることになるでしょう。

あらかじめ計画的付与日を変更することが予想される場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続きについて定めておきます。

 

複数組合があった場合の取扱い

労基法の規定に基づき、労使協定による年休の取得時季が集団的統一的に特定されると、その日数については、適用対象とされた事業場の全労働者を拘束することになりますが、その協定に反対する少数組合がある場合には、その少数組合員を協定に拘束することが著しく不合理であるような特別の事情があったり、不公正であったりするときは、その効果は少数組合員に及ばないこともあります。(三菱重工業事件 長崎地裁 平成4.3.26)

労働者による変更

労使協定の中に特段の定めがなければ、個別に検討され処理されることになります。

年休の日数が不足する労働者の場合

計画年休に充当する年休日数が不足する労働者の場合については、行政解釈では「付与日数を増やす等の措置が必要」としています(昭和63.1.1 基発1号)
が、こういった措置が講じられない場合は問題が生じます。

たとえば、計画年休が年10日あって工場が休業するのだが、従業員の中には年休から供出できる日数が10日に満たない者がおり、工場が休業している以上、出勤もできない状況に陥るという場合です。

このような労働者の欠勤は、労基法26条に規定する「使用者の責に帰すべき事由」による休業として取り扱われると解されています。
「付与日数を増やす、あるいは、計画的付与の対象外にする等の措置」をとらずに当該労働者を休業させる場合には、労働契約や労働協約、就業規則等に基づき、賃金、手当等の支払を定めているときは、当該労働契約等に基づき当該手当等を支払う必要がありますが、そのような定めがない場合であっても、少なくとも労働基準法第26条の規定による休業手当の支払(平均賃金の100分の60以上)が原則として必要です。

つまり、労働者は使用者に対して、休業手当(平均賃金の100分の60)を請求することができることになります。(昭和63.3.14 基発150号)

計画年休適用期間中に退職する労働者の場合

当該年休は個人年休として与えるよりほかはないと思われます。

したがって、予定された計画年休分を別の時季に指定してきた場合は、使用者はこれを拒めないと解されます。(昭和63.3.14 基発150号)

有給休暇の買い取り

有給休暇の買い取り

会社に長く勤めていると結構有給休暇ってたまってしまいますよね。2年たつと時効で無くなってしまうので買い取ってくれれば労働者側としてもうれしい気もします。ですが、残念なことに有給休暇の買い上げは労働基準法で禁止されているんです。さて、なぜでしょう?どうせ無くなってしまうものを買い取ってもらえるなんて労働者にとってはいいことではないでしょうか。労働基準法は使用者の味方なのでしょうか?

日本の有給休暇の取得状況

エクスペディア・ジャパンによる有給休暇の国際比較調査の結果(2018年12月発表)によると日本は3年連続の最下位(取得率50%程度)日本では有給休暇を取得しきれずに余った状態でいることがわかります。有給休暇の時効は2年ですから、2年間取得できなければ消滅してしまいます。そう考えると有給休暇の買い取りは労働者にとってもメリットがあるように思えます。労働者が会社に有給休暇の買取りを請求した場合、会社はこれに応じる義務はあるのでしょうか。みていきましょう。

有給の買い上げは労働基準法39条違反となります

年次有給休暇の買い上げは法律で禁止されているのはなぜでしょう。そもそも、有給休暇とは本来、労働者が自分の好きな時季に休暇を取ることができるというものです。ただ、せっかく休暇がとれても、その間の給与が支払われないのであれば休暇を取ろうとする労働者もいなくなってしまいます。そのため、休暇をとっても会社は給与を支払いますよ、というのが年次有給休暇というわけです。

つまり、有給休暇とは休暇をとることが主目的であり、その日に給与を支払うのは付随するものなのです。この有給休暇の趣旨に照らしてみれば、有給を買い上げて労働者が休暇を取れなくなってしまうのは、本来の有給の趣旨では無いと言うことが簡単にわかるでしょう。

ここで、有給休暇に関する法律の規定を簡単に再度確認しておきましょう

年次有給休暇は「労働者の疲労回復、健康の維持・増進、その他労働者の福祉向上を図ること」を目的として法律に定められています。(労働基準法第39条)
そして、請求することのできる日から2年間の経過により、時効という制度により請求ができなくなってしまいます。(労働基準法115条)
一例として、労働基準法上では、正社員は勤務開始から全労働日の8割以上出勤していれば、勤務期間が6か月経過した時点で会社に対して年10日間の有給休暇請求権を取得します。しかし、権利を行使せずその日から2年間が経過した場合、その有給休暇請求権は時効により消滅してしまいます。

この後の話のために便宜的に有給休暇を法定有給休暇と任意有給休暇に区別することにします。それぞれの定義は法定有給休暇とは一般に言われている有給休暇で労基法に定められているものを言います。任意有給休暇とは会社によって福利厚生の向上のために定められている有給休暇を言います。

 

法定有給休暇の付与

 

正社員

正社員は、全労働日のうち8割以上出勤することと、一定期間継続して勤務することにより有給休暇が与えられます。具体的には、6か月間の勤務により10日間の有給休暇が与えられ、その後1年継続して勤務する毎に新たに有給休暇が与えられ、しかも毎年その日数が増えるという仕組みになっています。

パート・アルバイト

パートなどの所定労働日数が少ない労働者に対しても、有給休暇は付与されます。この場合は、週の所定労働日数などに応じて有給休暇が付与されることになります。

会社に有給休暇買取りの義務はない

そもそも有給休暇とは、労働者の福祉向上のために有給で休むことを認めた制度に過ぎず、これを消化しなかった場合に会社が買い取らなければならないというものではありません。そのため、会社に有給休暇買取りの義務はありません。

会社からの有給休暇買取りは原則違法だが、そうでない場合もある

買取りを積極的に認めると、会社が有給休暇を買い取り労働者に有給休暇を取得させないという事態が生じ、せっかく法律で労働者の福祉向上を図った意味が失われてしまいます。したがって、会社からの有給休暇の買取りは原則として違法とされています。

会社からの有給休暇買取りが違法ではない場合



買い取りをしても労基法違反にはならないといった意味で、積極的に買い取りをすべし、あるいは労働者には、買い取ってもらう権利があるというわけではありません。

法定有給休暇を超えた分について買い上げる場合

会社による有給休暇の買取りが違法とならない場合として、まず、会社が法律で定められている分を超えて付与している場合が考えられます。

つまり、上記のように法定の有給休暇は年10日間の場合に、年15日間として5日間を上乗せしているような場合、上乗せ分の有給休暇は会社が独自に社員の福利厚生のためにもうけたものです。そのため、これを買い取ることを認めても、法の趣旨に反するものではありません。

会社が独自で与えた有給休暇については、買取りは違法ではありません。その取扱いについて会社の裁量の幅が広いということです。

有給休暇が時効消滅した場合

時効消滅した有給休暇は、買い取ることを認めても労働者の福祉に反するものとは考えられませんので、買い取っても労基法に違反するものではありません。

退職時に未消化有給休暇がある場合

同様に、退職時に未消化有給休暇がある場合は、退職すると未消化有給休暇を消化することができなくなってしまうので、特別に有給休暇を買い取ることが認められています。

買取りに応じる企業は少ない

有給休暇の買取りは原則違法であるので、たとえ適法な範囲であっても違法ではないかという誤解を招きかねません。わざわざ誤解を招くことを避ける方が賢明です。

また、個別に対応することは不公平な状態を招きかねませんので、制度として規定する必要があると考えられますが、文章の書き方次第では違法として指摘を受けることも十分考えられます。わざわざこんな事をしようとする事業主は少ないでしょう。

さらに、世の中の流れとしては有休を消化するように制度化する方向に進んでいます。2019年4月1日からは有給休暇5日は最低取得するように義務づけされました。

以上勘案して、有給買い取りをしてもらうことを狙うよりは取得できる環境を構築してもらうように働きかけましょう。事業主の方は人手不足の折、採用がよりやりやすくなると思われますので、そういった環境を整えアピールしていきましょう。

有給休暇を取得する権利と取得日を変更する権利

有給休暇は労働者が取得する日を指定して休むことができます。

有給休暇を取得する権利と取得日を変更する権利

年休の時季指定権(有休を取る権利)

労働者が有給を取得するのは、どのような目的で取得しても自由であるとされており、どの労働日に取得するかについての決定権も、時季指定権として労働者に認められています。使用者はその指定された日に与えるようにしなければなりません。

年休の時季変更権(有給の取得日を変更してもらう権利)

労働基準法は、労働者に年次有給休暇を取得する日を指定する「時季指定権」を認めるとともに、会社には「事業の正常な運営を妨げる場合」には取得日(取得時季)を変更することができる「時季変更権」を認めています。
「事業の正常な運営を妨げる場合」かどうかは、その事業場を基準として、事業規模、内容、労働者の担当業務、作業の繁閑、代行者の配置の難易などを考慮して、客観的に判断されるべきとしています。たとえば、年末・年度末のような繁忙期や、風邪を引いて休んでいる人が多く人員配置の面で問題が生じる場合などが考えられます。実務上は、現場で支障が出ないように調整をするようにします。

時季変更権に関するトピック

退職日が間近なものの有給休暇申請に対する時季変更権の行使

退職予定日が20日後の労働者がその時点でいまだ20日の年休を有している場合その退職予定日を超えての時季変更はすることができません。年休は「労働の義務を免除する」ものであり労働の義務のない退職者に与えることはできないからです。

有給休暇の当日申請は「時季変更権」を行使できる

有給休暇は一般的に前もって申請するのが望ましいとされ、労働者が会社に対して有給休暇を取得したいと申し出る日(時季指定権を行使する日)については、法律上の定めはありませんが、会社が事業に支障が出るかどうか判断するだけの時間的余裕を持って申し出る事は当然である(「会社が時季変更権を行使するための時間的余裕をもってなされるべきことは事柄の性質上当然である」)とする裁判例があり、有給をその日に与えることが事業の運営に影響を与えるかどうか判断するために必要な「合理的な期間」であれば、有給休暇の申請期限を設けることも可能です。現実に就業規則には「有給休暇の申請は〇日前までに行わなければならない」と申請期限を定めている会社がほとんどでしょう。

一方、急病などの理由で有給休暇を当日申請されることも少なくありません。しかし、会社によっては当日に休まれると困るようなケースもあるでしょう。

この場合会社は、労働者からの申請を却下することは可能なのでしょうか?

就業規則で定められている申請期限が「合理的な期間」である限り、申請期限までに行われなかった有給休暇の申請については、それを認めなかったとしても違法ではありません。よって、親族に急な不幸があった場合などのように労働者側に正当な理由がある場合ならともかく、単に遊びに行くためなどの理由で就業規則上の定めに違反して有給を請求するのは労働者の権利の濫用といえるでしょう。

有給休暇の当日申請却下が「不当と判断されるケース」もある

ただし、あらかじめ定めた申請期限までに行われなかった申請が、必ず「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するわけではありません。

申請期限後の申請であっても、当該労働者の担当する作業内容、性質、繁閑の程度などを総合的に勘案した結果、代替要員の確保などの必要性がなく事業の正常な運営を妨げるとは言えない場合には有給休暇を取得させないことを不当と判断される可能性があります。

また、年次有給休暇の当日申請は、先に述べた通り法律上は事後申請の扱いとなりますが、労働者から個別に争われた場合(裁判を起こされた場合)には、実質的に事前(始業前)に行われている申請を、法律上事後申請となることを理由に拒否することは、不当と判断される可能性が否定できません。

結局のところ、当日に行われた有給休暇の申請であっても申請期限後の申請であることや当日申請であることを理由に一律にその取得を拒否することはできず、事案ごとに個別に取得の可否を判断する必要があります。

会社のルールとしては当日申請がやむを得ないことであることを確認するため医療機関のレシートや診断書などの提出を求められるようにしておき、有給休暇を認めないことの妥当性や必要性を、慎重に判断することを心掛けましょう。

時季指定権と時季変更権の関係

結局のところ労働者には有給休暇の時季指定権(日にちを指定して有給休暇を取得する権利)があります。もちろん、いちいちなぜ休むのか言う必要はありません。しかし、会社側には時季変更権があります。(事業の正常な運営を妨げる場合は他の日に休んでもらうようにしてもらう権利があります。)会社から時季変更権の行使をほのめかされれば、なぜ休むのか、その日に休む必要があるのかは伝えなくてはならないでしょう。同一の日に有休を取得したい人が複数人出れば当然、事業の運営に支障を来すことが考えられますから、そうした場合、会社は、当人同士で調整して欲しいと言うことになるでしょう。それができなければ、公平を期すために全員認めないという判断も十分考えられます。

年5日有給休暇を与えることの義務化について絶対やってはいけないこと

働き方改革法案が成立し、平成31年4月からすべての会社で、年間の有給休暇消化日数が5日未満の従業員については、会社が有給休暇を取得するべき日を指定することが義務付けられました。

ここでは法改正による有給休暇取得日の指定の義務付けの内容と、企業において必要な対応についてわかりやすくご説明します。最後に絶対やってはいけない対応について確認します。

最低でも5日以上有給消化させることが義務付けられた

働き方改革法案の成立により、労働基準法が改正され、年10日以上有給休暇の権利がある従業員について、最低でも5日以上は有給休暇を与えることが義務付けられました。有給休暇の消化日数が5日未満の従業員に対しては、企業側が有給休暇の日を指定して有給休暇を取得させなければいけません。

(1)対象となる従業員

対象となる従業員は年10日以上有給休暇の権利がある従業員です。

入社後6か月が経過している正社員またはフルタイムの契約社員
入社後6か月が経過している週30時間以上勤務のパート社員
入社後3年半以上経過している週4日出勤のパート社員
入社後5年半以上経過している週3日出勤のパート社員

これらの人の有給休暇の既取得日数が5日未満であれば、企業側で有給休暇取得日を指定する義務の対象となります。

一方、勤務時間が週30時間未満のパート社員は出勤日数によって、扱いが異なり、以下の通りです。

入社後3年半が経過した週4日出勤のパート社員

入社後5年半が経過した週3日出勤のパート社員

以上の場合は直近1年間の出勤率が8割以上であれば、年10日の有給休暇の権利が発生します。その場合、有給休暇の既取得日数が5日未満であれば、改正法による有給休暇取得日指定の義務の対象となります。一方、週2日以下のパート社員は年10日の有給休暇の権利が発生しないため対象となりません。

また、改正法による有給休暇取得日指定の義務になる場合であっても、計画年休制度により有給休暇を取得していたり、従業員からの請求により有給休暇を消化している場合は、その日数分は、有給休暇取得日指定の義務の日数から差し引かれます。

例えば、有給休暇を4日取得済みの人については、あと1日有給休暇取得日を会社側で指定すれば問題ありません。同様に、すでに5日以上取得している場合

計画年休制度によりすでに年5日以上の有給休暇を付与している場合
従業員がすでに年5日以上の有給休暇を取得している
場合
など は有給休暇取得日指定義務の対象とはなりません。

(2)指定義務の具体的な内容

会社には「基準日から1年間に有給休暇取得日数が5日未満の従業員に対して、会社側から具体的に日にちを決めて、有給休暇を取得させること」が義務付けられました。

ここでいう基準日から1年間というのは、次のように、従業員の入社日の6か月後から数えて1年ごとの期間です。
基準日の統一の扱いをしている場合はこの限りではありません。

基準日から1年間とは

  • 入社日の6か月後の日~入社日の1年6か月後の日の前日の1年間
  • 入社日の1年6か月後の日~入社日の2年6か月後の日の前日の1年間
  • 入社日の2年6か月後の日~入社日の3年6か月後の日の前日の1年間
  • 入社日の3年6か月後の日~入社日の4年6か月後の日の前日の1年間
  • 入社日の4年6か月後の日~入社日の5年6か月後の日の前日の1年間
  • …以下同様

中小企業における対応

有給休暇取得日の指定義務化に対する会社側の対応として、次の二つが考えられます。今回の改正には中小企業の優遇措置はありません。すべての企業が対象になります。

(1)有給休暇を従業員個別に指定する方式

これは、従業員ごとに消化日数が5日以上になっているかをチェックし、5日未満になってしまいそうな従業員について、会社が有給休暇取得日を指定する方法です。

例えば、就業規則で、「基準日から1年間の期間が終わる1か月前までに有給休暇が5日未満の従業員について会社が有給休暇を指定する」ことを定めて、実行していくことが考えられます。

この方法のメリットとデメリットは

メリット:会社による指定の柔軟性が高い

会社と該当する従業員との話し合いで指定日を決めればよいので、従業員代表との労使協定が必要になる計画年休制度と比較して、柔軟な運営が可能です。

デメリット:個別の管理が必要。煩わしい

従業員ごとに有給休暇の消化日数を管理したうえで、基準日から1年間の期間の終了日が近づいてきたタイミングで、有給休暇を会社側から指定することを忘れないようにする必要があります。個別の従業員ごとに管理の手間がかかることがデメリットになります。

(2)計画年休制度を導入する

有給休暇取得日の指定義務化へのもう一つの対応方法が、計画年休制度の導入です。

「計画年休制度」とは、会社が従業員代表との労使協定により、各従業員の有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ日にちを決めてしまうことができる制度です。法改正の前から存在する制度で、労働基準法39条6項に定められています。

計画年休制度で年5日以上の有給休暇を付与すれば、対象従業員について5日以上は有給を消化させていることになるため、今回の法改正による有給休暇取得日の指定義務の対象外になります。

そして、計画年休制度では、以下のようなさまざまなパターンの制度設計が可能です。

1.全社一斉に特定の日を有給休暇とする
2.部署ごとに有給休暇をとる日を分ける
3.有給休暇をとる日を1人ずつ決めていく

この制度を採用するメリットとデメリットは以下の通りです。

メリット:個別の従業員ごとの管理が必要なくなる。

労使協定により5日間の有給休暇の取得日を決めてしまうことで、個別の従業員ごとに改正法による5日以上の有給休暇の消化の義務を果たしたかどうかを管理する手間を省くことができます。

また、例えば、お盆休みや年末年始休暇を現在の運用よりも5日長くする内容で計画年休制度を実施するなどして、できるだけ業務に支障が少ない時期に、全社一斉に有給を消化するといった対応も可能です。

 

デメリット:労使協定が必要で日にちを会社の都合で変更できない。労使協定の締結が煩わしい

計画年休制度の手続きとして労使協定が必要になります。従業員代表(従業員の過半数が加入する労働組合がある場合はその労働組合)との話し合いを行い、労使協定を締結することが必要です。

役所への届出は必要なく、労使協定を社内で保管すれば問題ありません。

そして計画年休制度の場合、労使協定で決めた有給休暇取得日は会社側の都合で変更することができません。そのため、後で有給の日にちを変更する場合が想定される会社では無地香椎でしょう。

また、会社一斉に休む場合は有給の少ない人の取り扱いが問題になります。

 

(3)どちらの方法を選ぶのかは5日以上有休を取得している人の割合で決まる

1,社内で有給消化年5日以上の従業員が多数を占めるケース

現状で年5日以上有給休暇を取得している従業員の割合が半分以上というような場合には、個別指定方式が適していることが多いです。この場合、消化日数が5日未満になった人に対してのみ、個別に有給休暇取得日を指定することができ、柔軟な対応が可能です。

2,社内で有給消化年5日未満の従業員が多数を占めるケース

現状で年5日以上の有給休暇を取得している従業員が少ない場合には、計画年休制度による対応が適しています。労使協定に基づきお盆や年末年始のタイミングで有給休暇を消化させるなど、計画的に有給休暇消化日を増やすことにより対応するほうが業務への支障を避けやすいからです。

有給休暇の義務化に違反した場合の罰則

今回の法改正による義務に違反して、対象となる従業員に有給休暇の指定をしなかった場合は、一人につき30万円以下の罰金が課されます。

いつから5日以上付与が義務化されるか?

改正された労働基準法に基づく新しい有給休暇の制度は平成31年4月1日から適用されます。中小企業のための適用猶予制度はなく、中小企業も平成31年4月1日からです。

最後に絶対やってはいけない取り扱い

すでに会社指定の公休として存在する夏休みや正月休みを有給休暇として指定することは「労働条件の不利益変更」となり、労働基準法違反となります。絶対にやってはいけません。

残業(時間外労働)規制

過度の残業は健康経営の観点からも進められません。

時間外労働の上限規制のポイント(2019年4月から)

働き方改革による労働基準法改正で、労働時間に関する規制が強化されます。主なものは次のようなものです。
1.残業時間の上限規制により、月45時間、年360時間までの残業が基本となる。(現状と同じ)
2.特別条項つき36協定を用いることで、1年で6回までなら、1ヶ月の残業時間を100時間まで。1年の残業時間上限も720時間まで。(厳しくなります)
3.2019年4月から(上記1.2の)残業時間の上限規制が適用される。ただし中小企業は1年後の2020年からです。
4.タクシー、トラック運転手や医師など一部の業種に残業時間の上限規制は2024年から適用されます。

時間外労働の上限規制とは

今まで時間外労働の上限規制はどうなっていたのでしょう?本来、法定労働時間(週40時間1日8時間)を超えた労働は違法ですが、36(さぶろく)協定を締結すれば残業(時間外労働)をさせても良いということになっています。但し、36協定を届け出たからといって、無制限に残業をさせても良いというわけではありません。しかし、一時的に残業が増えることはどこの会社にもあり得ます。そのような時は36協定の特別条項を利用し残業時間を一時的に増やすことができました。

特別条項付きの36協定を締結することで、1年のうち6ヶ月に限り残業時間の上限規制が撤廃されます。1ヶ月×6回の合計6ヶ月間のみ、36協定で定められている時間を超えて無制限に残業させることができました。

この状況を改善するために働き方改革により、36協定による残業時間の上限規制をより強固にすることになりました。

働き方改革関連法施行前の限度基準告示による上限は罰則はあるものの強制力はなく、特別条項を設けることで実質は上限なく従業員に時間外労働を行わせることが可能でしたが、今回の改正によって労働時間の上限が法律によって定められ、臨時的な特別な事情がある場合でも上限を上回ってはならないとされています。守れなかった場合は罰則もあります。

年間での時間外労働の上限規制について

働き方改革による労働基準法の改正により、残業時間の上限規制が厳しくなり、特別条項付き36協定を締結しても、残業時間に制限が設けられるようになりました。

今までは年6回限定で、1ヶ月間の残業時間を無制限にできましたが、法改正後は1ヶ月の残業時間の上限が100時間に定められました。特別条項を利用しても、月100時間以上残業させたら違法になるのです。

2019年4月以降の残業時間の上限

1.平時の残業時間上限は、1ヶ月で45時間、1年で360時間。(今までと同じ)
2.特別条項を利用した場合、1年で合計6ヶ月の間だけ、月の残業時間上限が100時間まで延長できる。(但し、休日労働の時間も残業時間に含める)
3.特別条項を利用した場合、1年720時間以内の残業が認められる。
4.特別条項があっても、残業時間には複数月平均80時間以内の制限が設けられる。(休日労働の時間も残業時間に含める)

前述の通り、今までは36協定の特別条項を締結することで、時間外労働の上限規制を超えて労働させることができました。しかもこの特別条項には時間外労働の上限に関して明確な法律の定めがなく、長時間労働を指摘されても「年720時間以内が望ましい」という行政指導を受けることがある程度のものでした。

改正後も、基本的に時間外労働は月45時間・年360時間に収めなければならないことは変わりません。また、特別条項を締結しての時間外労働は認められますが、年間720時間以内・月100時間未満・複数月平均80時間以内(休日労働も含む)・時間外労働45時間超えは年6カ月以内という条件をすべて満たさなくてはならなくなりました。これに違反した場合は、法律により罰金30万円or6カ月以下の懲役の罰則が科される可能性あるので注意が必要です。

複数月平均とは新しい概念なので解説します。

時間外労働時間は「複数月平均80時間以内」に

「複数月平均80時間以内」とは

例えば12月時点でこの基準に合致しているかを確認する場合、7~12月(6カ月平均)・8~12月(5カ月平均)・9~12月(4カ月平均)・10~12月(3カ月平均)・11~12月(2カ月平均)のいずれの場合でも平均の時間外労働が80時間を下回っている必要があります。

1つでも時間外労働時間が平均80時間を超えていると、12月の時間外労働は違法なものとなるため残業時間の管理が重要になります。

中小企業は2020年4月から適用されます

大企業では2019年4月1日から残業時間の上限規制が適用されますが、中小企業の場合は1年遅れて2020年4月1日からとなります。

規制を除外・猶予される事業や業務

中小企業への上限規制適用に猶予があるのとは別に、残業時間の上限規制に対する除外や猶予の措置がとられている事業が存在します。残業規制が遅れて適用される、または規制そのものが適用されないのは、以下の事業です。

土木、建設などの建設業・・・2024年4月1日

病院で働く医師・・・2024年4月1日

自動車を運転する業務(タクシー運転手など)・・・2024年4月1日

新技術や新商品などの研究開発業務・・・上限規制は適用されない

こちらに詳しく載ってます↓

働き方改革総合リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf

その他の改正点

中小企業も時間外労働の割増賃金が50%へ引き上げられる(2023年4月より)

時間外労働が発生すると労働基準法の定めにより、割増賃金を支払う必要があります。割増賃金は2008年の労働基準法改正により、大企業では月60時間を超える場合の時間外労働の割増賃金が50%に引き上げられました。中小企業には猶予されていましたが、働き方関連法の改正により2023年4月より割増賃金の引き上げが中小企業にも適用されることになります。

罰則について

2019年4月以降、上限規制を超えた違法な時間外労働に対して罰則が科されるようになります。さらに、臨時的な特別な事情がある場合であっても上回ることのできない上限が設けられました。これにより、時間外労働の上限規制に違反した場合、半年以下の懲役か30万円以下の罰金が科されることになります。

違法労働となる例

36協定を締結していない場合、そもそも法定労働時間を超えての労働が違法になります。そのため、1日8時間もしくは週40時間を超えての労働自体が違法になります。

36協定を締結・特別条項を締結していない場合は、週15時間、1カ月45時間を超過しての時間外労働が違法になります。

36協定・特別条項のどちらも締結している場合は、下記のいずれかに該当する場合が違法になります。

年6回を超えて月45時間以上を超える時間外労働をさせること
月100時間以上の時間外労働をさせること
複数月の平均時間外労働時間が80時間を超えること
年720時間を超えて時間外労働をさせること